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【発明の名称】 エイズ予防及び治療用組成物
【発明者】 【氏名】坂上 宏

【氏名】山本 直樹

【氏名】中島 秀喜

【氏名】小松 信彦

【氏名】藤巻 正人

【目的】 エイズウイルスによる後天性免疫不全症の発現を阻止すると共に、免疫力を高め、長期間の連用に耐え得るような副作用の全くない、又は副作用の少ないエイズ予防及び治療用組成物を提供する。
【構成】 エイズ予防及び治療用組成物は、カツアバ(Erythroxylum catuaba Arr. Cam.)の樹皮を脱脂後、熱水及びアルカリ水溶液によって抽出処理して得られる抽出画分を含有してなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】カツアバ(Erythroxylum catuaba Arr.Cam.)の乾燥樹皮を脱脂後、熱水及びアルカリ水溶液によって抽出処理して得られる抽出画分を含有することを特徴とする、エイズ予防及び治療用組成物。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、エイズ(後天性免疫不全症候群)予防及びエイズ患者の日和見感染症に対する治療用組成物に関する。更に詳しくは、ブラジル産植物カツアバ(Erythroxylum catuaba Arr.Cam.)の乾燥樹皮を脱脂後、熱水、アルカリ水溶液によって抽出処理して得られる抽出成分の画分を含むエイズ予防及び治療用組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】1991年10月までに世界保健機関(WHO)に報告されたエイズ患者数は全世界で40万人を越え、また、エイズの原因ウイルスであるHIV(human immunodeficiencyvirus)感染者は1000万人以上である。さらに、1981年に欧米でエイズが発見されて以来、近年ではアフリカ、アジアでも急速に増加し、西暦2000年にはエイズ患者数は130万人以上に、HIV感染者は3000万人以上に達するものと予想されている。この致死性のウイルス感染症であるエイズに対する治療法の研究は世界各国で精力的に行われているが、現在まで有効な治療法は無い。現在利用されている抗エイズ薬としては、感染細胞内でHIVが自己の遺伝子を複製するのを阻止することによって作用するAZT(アジドチミジン;3′−アジド−2′,3′−ジデオキシチミジン)、DDI(2′,3′−ジデオキシイノシン)がある。しかし、患者の延命に寄与するものの、エイズを完全に治癒するには至らず、さらにAZTは強度の貧血や顆粒細胞減少症等の副作用を誘発し、長期投与に問題を残している。また、AZTあるいはDDIの投与は各薬剤に対する耐性ウイルス株を誘導し、効果が軽減することが知られている。また、発病していないHIV感染者(キャリアー)に対して発病防止のために、免疫賦活剤であるレンチナン、インターフェロンあるいはHIVの細胞への結合を阻害する硫酸デキストラン、グリチルリチンの投与が試みられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】エイズウイルスは、HIVが生体の免疫防御機構の中心であるT4リンパ球に感染し、細胞内で増殖し、細胞を破壊するに至り、ヒトが重篤な免疫不全に陥るため、通常は病気を起こさないような微生物がはびこり、カリニ肺炎やカポジ肉腫などの日和見感染症を末期症状とし、発病後数年以内に患者は殆ど全て死に至る病気である。この末期症状に対するばかりでなく、エイズをHIVによるウイルス感染症の感染過程として全体的にとらえ、出来るだけ早期にHIV感染を検出し、いかに患者を延命させるかがこの病気に対する現在の対処の仕方である。したがって、多剤併用で副作用を避けながら患者を延命させる上で、AZTなどとは別系統の薬が望まれている。すなわち、HIV感染初期からHIVの細胞への吸着や、感染細胞からのHIVの発現を阻止することにより増殖を抑制し、さらに、患者の免疫力を高め、長期間の連用に耐えうるような、副作用の全くない、あるいは副作用の少ない薬剤が望まれている。
【0004】
【課題を解決するための手段】発明者らは、クラフトリグニンが抗ウイルス活性(特に抗HIV活性)を有するとの報告(特開平3−120223号)に注目し、鋭意研究を行った結果、ブラジルにおいて乾燥樹皮成分が薬用として用いられているカツアバの樹皮抽出成分が抗HIV活性を有することを見出し、本発明に至った。したがって、本発明の目的は、カツアバ(Erythroxylum catuaba Arr.Cam.)の乾燥樹皮を脱脂後、熱水、アルカリ水溶液によって抽出処理して得られる抽出画分を含有することを特徴とするエイズ予防及び治療用組成物を提供することにある。
【0005】
【作用】カツアバはブラジル国内各地に生育する強壮強精効果があるといわれる数種類の植物に付けられた名称である。コカ科のカツアバ、すなわちErythroxylum catuaba Arr.Cam.はセアラー州で見られる潅木であり、樹皮が薬用部である。樹皮は熱水で浸出し、お茶の様にして用いられている。さらに、同科のE.vaccinifolium Mart.もカツアバと呼ばれている。この他、ノウゼンカズラ科のAnemopaegma arvense(Vell.)Stell.はA.mirandum DC.の名称で知られ、中央ブラジルの至る所に生育し、有名である。マラニヨン州のMicropholi(pouteria)obtusifolia Baheni(アカテツ科)もカツアバと称され、セアラー州のSecondatia floribunda DC.(キョウチクトウ科)、及びバイア州のTrichilia種(アカテツ科)も同様の特質を有する。いずれの植物においても含有成分の生理作用及び構造研究は行われていない。本発明によるエイズ予防及び治療用組成物の有効成分は、上記の各種のカツアバのうち、Erythroxylum catuaba Arr.Cam.に含有される。発明者らはカツアバ(Erythroxylum catuaba Arr.Cam.)樹皮から図1に示す従来のリグニン様物質抽出法により抽出し、4つの画分を得た。すなわち、アルコールで充分脱脂した後のカツアバ樹皮の熱水抽出画分(Fr.I),熱水抽出後、残存する酸性物質をアルカリ水溶液で抽出し、酸を加えたときの沈殿画分(Fr.II)、その上清に1倍量のエタノールを加えた時の沈殿物画分(Fr.III)及び5倍量のエタノールを加えた沈殿物画分(Fr.IV)である。後述するように、上記4種のカツアバ抽出画分Fr.I〜IVのうちFr.I、II及びIVは、エイズの二種の原因ウイルス(HIV−I,HIV−II)の細胞への感染による細胞変性及び感染細胞表面へのHIV抗原発現を抑制する性質を有する。また、カツアバ乾燥樹皮からの抽出物はブラジルにおいて民間薬として長い歴史を有し、低毒性であり、エイズの予防剤及び治療剤として極めて有用である。次にカツアバ樹皮からの抽出法の詳細及び各抽出画分の抗HIV活性を実施例として述べる。
【0006】
【実施例】カツアバ抽出物の分画を、図1に示す従来のリグニン様物質抽出法で行った。すなわち、カツアバ(Erythroxylum catuaba Arr.Cam.)乾燥樹皮(高砂香料工業株式会社より入手)200gを細切し、エタノール 1500ml中で70〜80℃、6時間ずつ3回脱脂した。脱脂後、残渣を1500mlの沸騰水で3時間、3回抽出し、水に対し透析、濃縮後、凍結乾燥してFr.Iを得た。さらに、その抽出残渣を1500mlの4%水酸化ナトリウム溶液で、室温下、3回抽出し、抽出液に酢酸を加えてpHを5.0に調整した。生じた沈殿を10,000×g、20分間での遠心操作により回収し、1%水酸化ナトリウム溶液に溶解し、酢酸でpH9.0に調整し、透析後、凍結乾燥してFr.IIを得た。この上清に等量のエタノールを加え、その時生じた沈殿を前記と同じ遠心操作により回収し、水に溶解、透析後、凍結乾燥し、Fr.IIIを得た。この上清にさらに5倍量のエタノールを追加し、得られた沈殿をFr.IIIと同様に処理してFr.IVとした。各画分Fr.I〜Fr.IVがそれぞれ2.54、0.19、0.15、0.33%(w/w)の収率で得られた。これらを抗エイズウイルス活性試験(細胞変性抑制試験及びウイルス抗原発現抑制試験)に使用した。
【0007】抗HIV活性試験1)細胞変性抑制効果試験方法:成人T細胞白血病の原因ウイルスであるHTLV−1陽性細胞株のMT−4細胞に、エイズの原因ウイルスであるHIVを感染させると、細胞変性効果により細胞の増殖が著しく抑えられる現象を利用して抗HIV効果を測定した。詳述すれば、96穴マイクロタイタープレートに、種々の濃度のカツアバ画分Fr.I〜IVと共にHIV−1HTLV-IIIB又はHIV−2RODが感染したMT−4細胞(1.5×105/well,MOI:0.01)を感染直後加えた。同時に、カツアバ画分自体が有するMT−4細胞に対する細胞毒性を知るために、ウイルス非感染細胞を同様に種々の濃度の試験物質と共に培養を行った。CO2インキュベーターで37℃、5日間、10%牛胎児血清を含むRPMI 1640培地で培養した後、生細胞をMTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)2,5−ジフェニル−テトラゾリウム)法により比色測定した[Pauwels R.ら,J.Virol.Methods,16,171−185,(1987)]。得られた結果を図2に示す。図中、横軸はカツアバ画分の濃度(μg/ml)を示し、縦軸は生存細胞数(コントロールに対する%)を示す。これらのグラフにおいて、白棒はウイルス非感染細胞に関する試験結果に係り、本発明のカツアバ画分Fr.I〜IVを添加しないで行ったコントロールの結果を100%として生存細胞数を相対的に示す。斜線を付した棒はエイズウイルスに感染した細胞に関する試験結果に係り、前記コントロールの結果を100%として生存細胞数を相対的に示す。図中、左欄のグラフは、それぞれカツアバ画分Fr.I、II及びIVのHIV−1に対する活性に係り、右欄のグラフはそれぞれカツアバ画分Fr.I、II及びIVのHIV−2に対する活性に係る。これらのグラフから明らかなように、カツアバ抽出画分Fr.I、II及びIVはいずれも濃度の上昇に応じて生存する細胞の数が増大しており、HIV−1及びHIV−2の感染により生ずる細胞変性効果を抑制することが理解される。なお、カツアバ抽出画分のうちFr.IIIは抗HIV活性が認められなかった。
【0008】2)ウイルス抗原発現抑制試験試験方法:MT−4細胞は、HIVに感染するとHIV抗原蛋白質を細胞表面に発現し、感染5日目ないし7日目にはほぼ100%の細胞がウイルス抗原陽性となる。これは抗HIV抗体陽性血清を一次抗体とした間接蛍光抗体法を用いることで判定できる。HIVに感染したMT−4細胞に被験物質を加えて培養し、ウイルス抗原陽性細胞数を計測することにより、抗エイズ効果を評価することができる[Nakashimaら,Antimicrob.Agents,Chemother.,31,1524−1528(1987);Pauwelsら,J.Virol.Methods,16,171−185(1987)]。詳述すれば、48穴プラスチックプレートに、種々の濃度のカツアバ画分(500μl)と共にHIV−1HTLV-IIIB又はHIV−2ROD感染MT−4細胞(500μl:3×105/ml、MOI:0.01)を感染直後加えた。CO2インキュベーターで37℃、5日間、10%牛胎児血清を含むRPMI 1640倍地で培養した後、細胞培養液全量を試験管に移して遠心した。生理食塩水−リン酸緩衝液(pH7.2)で洗浄後、細胞沈渣をレーザーフローサイトメトリー(FACS)でHIV膜抗原陽性率を測定するために、無固定の状態で一次抗体(ヒト抗HIV陽性血清1:200倍希釈)、二次抗体(フルオレセインイソチオシアネート標識抗ヒトIgG 1:20倍希釈)とそれぞれ1時間反応させた。反応後、細胞を洗浄し、0.37%ホルムアルデヒド溶液で固定し、抗原陽性細胞(F cells:蛍光陽性細胞)をFACSで測定した。カツアバ画分非添加のHIV感染MT−4細胞を陽性対照、HIV非感染MT−4細胞を陰性対照として、カツアバ画分を加えた培養細胞での抗原発現率を次の式で算出した。
抗原発現率(%)

上記式に基づいて得られた結果を図2のグラフ中に折れ線として示す。これらのグラフから明らかなように、本発明のカツアバ画分Fr.I、II及びIVは濃度依存的にHIV−1及びHIV−2抗原の両方の発現を減少させた。この場合にも、前記試験1)と同様にカツアバ画分Fr.IIIには活性が認められなかった。
【0009】なお、上述のカツアバ抽出画分はエイズウイルスHIV−1及びHIV−2に対する抗ウイルス活性以外にも、画分Fr.IIIを含めてすべてが抗菌活性を有する。抗菌活性に関するデータを参考例として併せて説明する。
参考例(抗菌活性)
試験方法:雌ICRマウス(6週齢、各群10−12匹)に滅菌生理食塩水に溶かしたカツアバ抽出画分を種々の投与ルートで投与し、48時間後に最小致死量の各種菌体、4×106大腸菌(Escherichia coli GN2411)、8×107緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa H7)、2.5×108肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae ST101)、1×109黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus SH10)をそれぞれ接種した。
試験結果:菌接種10日目に生存マウスの割合(%)を測定した。
1)抗菌活性の誘導マウス(10−12匹/群)に大腸菌の腹腔接種48時間前、生理食塩水(対照)あるいは表示量の各種カツアバ抽出物を腹腔投与した。生存率を大腸菌接種後10日目に測定した。
【表1】
カツアバ抽出物の大腸菌に対する抗菌活性 投 与 量 生 存 数 (mg/Kg) Fr.I Fr.II Fr.III Fr.IV 0 2/12 2/12 2/12 1/12 0.08 8/10 1/10 1/10 1/10 0.4 8/10 4/10 1/10 1/10 2 9/10 7/10 0/10 0/10 8 9/10 8/10 0/10 4/10表1に示すように、マウスに大腸菌(Escherichia coli GN2411)を接種すると1日以上の生存率はわずかに8.3−16.7%(12匹中1または2匹)であった。しかし、大腸菌接種48時間前に、0.08mg/KgのFr.Iをマウス腹腔内に投与しておくと生存率は80%に増大した。また、Fr.Iの至適投与量(2mg/Kg)で生存率は90%に達した。Fr.IIの大腸菌に対する抗菌性は有意であり、Fr.III及びFr.IVは活性がほとんど認められなかった。
2)投与経路の影響マウス(10−12匹/群)に大腸菌の腹腔接種48時間前、後述の表2に示した投与経路でFr.Iを単回で投与した。ただし、経口投与は大腸菌接種48、72及び96時間前の3回である。生存率は接種後10日目に測定した。
【表2】
Fr.Iの抗菌活性の投与経路による影響 Fr.Iの投与量 投与経路 生存匹数 8mg/Kg×1 腹腔投与 7/10 8mg/Kg×1 静脈投与 6/10 8mg/Kg×1 筋肉内投与 4/10 8mg/Kg×1 皮下投与 4/10 8mg/Kg×3 経口投与 3/10 80mg/Kg×3 経口投与 3/10 0mg/Kg(対照) 1/10表2に示すように、大腸菌に対するFr.Iの抗菌活性は腹腔及び静脈内投与で最も強く、次に筋肉内、皮下投与、経口投与の順であった。
3)抗菌スペクトルマウス(10−12匹/群)に各細菌の腹腔接種48時間前、生理食塩水あるいは2mg/Kgの各フラクションをそれぞれ腹腔投与した。生存率は接種後10日目に測定した。
【表3】
カツアバ抽出物の抗菌スペクトル 細 菌 類 生 存 匹 数 対 照 Fr.I Fr.II Fr.III Fr.IV グラム陰性菌類: 大腸菌 2/10 9/10 7/10 0/10 0/10 緑膿菌 0/12 0/10 2/10 1/10 0/10 肺炎桿菌 0/10 1/10 2/10 1/10 2/10 グラム陽性菌類: 黄色ブドウ球菌 0/10 3/10 3/10 2/10 1/10表3に示すように、抗菌スペクトルは狭く、Fr.I、IIは大腸菌感染に有効であるが、肺炎桿菌及び黄色ブドウ球菌の致死活性をわずかに減弱させるのみであり、緑膿菌に対して抗菌活性は示さなかった。
【0010】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によるカツアバ抽出画分Fr.I、II及びIVは、HIV−1及び2に対して細胞変性抑制及びウイルス抗原発現抑制の効果を有しており、従来使用されている抗HIV剤とは異なる作用効果によるエイズ予防及び治療用組成物の開発が可能になる。
【出願人】 【識別番号】592101079
【氏名又は名称】財団法人民生科学協会
【出願日】 平成4年(1992)4月10日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】木村 正巳
【公開番号】 特開平5−286866
【公開日】 平成5年(1993)11月2日
【出願番号】 特願平4−118128